「錬金術」が成功した例はあるの?
科学的手法を用いて卑金属から金を作り出すのが「錬金術」です。金を含む貴金属は希少であるのと同時に、変化しにくいという特質を持っています。アルカリ金属、アルミニウム、亜鉛などの卑金属と呼ばれるものは、貴金属と異なり空気中で酸化しやすい性質です。古代エジプトでは、この卑金属を金に練成しようと錬金術の研究がされていたようです。
当時、砂金が金の主な供給源だったと考えられますから、砂金を加工する技術の発展の過程が錬金術へと繋がったのではないでしょうか。金を集める為に莫大な犠牲が必要だったことを考えると、錬金術の必要性は高かったと思われます。
錬金術の研究は古代ギリシャやイスラム世界でも行われ、それが西洋に伝わったようです。錬金術の研究は世界各地で行われましたが、西暦600年ごろから1600年ごろまでの中世では特に盛んだったようです。
東洋でも錬金術は盛んでしたが西洋のそれとは異なり、金よりも不老不死の研究の方が重要だったようです。錬金術では卑金属から金へと変質する過程で、媒介として「賢者の石」が存在するという考え方が生まれ、その賢者の石は不老不死をもたらすということが、まことしやかに語られました。
この考え方は「鋼の錬金術師」や「ハリーポッター」でも登場します。そして不老不死の考え方(霊魂の錬金術)は、宗教や哲学へ大きな影響を与えることになります。
もちろんどんな手法を用いても金を作り出すことはできませんでした。現在では、他の物質から元素を作り出すことは不可能であると知られていますが、金を生み出そうとする研究は、様々な分野での発明・発見に繋がり、「科学」を発展させる礎になりました。
錬金術の研究者の中には、他の分野で成功した人物が結構います。18世紀ドイツのベルガーという錬金術師はザクセン王から磁器に適した土の捜索を依頼され、その依頼のため錬金術の技術を応用し、見事良い土を発見しました。この土で造られた白磁が、後のマイセン白磁なのです。
その当時の日本では磁器である伊万里焼がその重さと同量の金と交換されていたそうですから、考え方によってはこれも錬金術であると言えるのではないでしょうか。
その後、錬金術は1774年の質量保存の法則や、1802年の原子説の登場によってその役割を近代科学に譲ることになります。
さて、錬金術の成果を挙げるとすれば中東における紀元前2世紀ごろの「蒸留」技術の発見、中国における7世紀から10世紀の「火薬」の発明、イスラム圏における8世紀から9世紀の「硝酸、硫酸、塩酸、王水」の発明、そして前述した欧州における18世紀の「白磁」の開発などが挙げられるでしょう。
錬金術によって金を生み出すことはできませんでしたが、その研究の過程で生まれた技術や発見や発明は、金を生み出す以上の価値を人類にもたらしたのではないでしょうか。
万有引力を発見したニュートンも錬金術師で、「最後の錬金術師」という異名がありました。遺髪からは水銀が検出されたそうです。ニュートンは錬金術に関する書籍を数多く書いており、彼の死因は錬金術の研究の過程で使った水銀や亜鉛などによる化学物質中毒であるという説もあります。
ニュートンは物理学者や錬金術師であったのと同時にイギリス王立造幣局の監事も兼任しており、彼が金と銀の交換比率1:15を定めました。この交換比率により金価格が安定し、この交換比率は以後200年も使用されることになりました。