なぜ金はこれほどまでに工業製品に使用されるのか?

金には物質としての特性がいくつかあり、そのひとつは安定性です。科学的に金はたいへん安定しています。水中はもちろん空気中であっても酸化しません。つまり酸化によって錆びる恐れがないので、金はその輝きをいつまでも保つことができるのです。

ツタンカーメンの黄金のマスクが今でもその輝きを失っていないのは、これが理由です。他の金属製ならばとっくの昔に朽ち果てていたはずです。

また展延性も金の特性の一つと言えます。金1グラムはなんと3,000メートルの長さまで引き延ばすことができるのです。金は軟らかいため、そこまで引き延ばすことが可能なのです。金箔などはその特性を生かしたすばらしい製品だと言えます。

ちなみに金の比重は19.3であり、水のおよそ20倍の重さがあります。また融点が1,064度と、銅の1,084.5度や、鉄の1,535度と比べてかなり低く、これも加工しやすい理由です。

金の工業製品の中で一番ポピュラーなのは金線と金メッキ溶液(シアン化金カリウム)です。金線は安定性と展延性、そして通電性を生かした製品です。金の電気抵抗は2.4と銀の1.6に次いで低く、通電性が高いです。その特性を生かしてゴールド・ボンディング・ワイヤー等にしてCPUや電子部品の一部として使用されます。古いパソコンや携帯電話が都市鉱山として脚光を浴びていますが、この金線が源泉なのです。

しかし現在では金の価格高騰や加工自術の進歩などで、金に固執する必要は低くなり、銅などが代替品として用いられています。また付加価値が低く、製造が比較的容易なため新興国との競争が激化し、利幅がかなり小さくなり日本の勢いは無くなっています。

金メッキ溶液は導電性と腐食に強い耐性を生かし、電子部品の伝導体やコネクタに金メッキとして使用されています。全体的な使用量は少ないのですが、可視光や非可視光をよく反射する金の特性を生かし、人工衛星の保護剤として用いられたり、宇宙飛行士のヘルメットに付着させて紫外線を防ぐのに用いられています。

また金はパラジウムとの合金で金歯に使用されています。これは金の安定性と加工しやすさという特性を生かした利用法と言えるでしょう。日本における金歯の需要は極めて高く、年間23トンあまりで世界一。金歯に関するニーズは、金歯が健康保険の対象になっているか否かで変わってくるようです。

さて、工業製品や金歯は金の加工需要のうち30%弱しかありません。少ないと思われるかもしれませんが、これが実情なのです。金は工業製品においても重要なモノのひとつですが、その特性を生かした用途はそれ程大きくはないのです。加工需要の残り70%は装飾品として、金のそのままの状態で使用されます。金の装飾品は所有する事に価値がありますので、金の価値は実用的ではないところに重点があることがわかります。

2011年の金の供給量のうち、約455トンは中央銀行が購入する金の延べ棒に加工されます。この金の延べ棒はラージバーと呼ばれ、1本に12キログラムの金が使用されます。金の延べ棒はほとんどが99%以上の純金または純金に近いモノで作られています。このように金のそのままの形で蓄えられているのが金の特徴と言えます。

金そのものの価格の高さも要因のひとつですが、金の価値は工業製品の材料としての価値よりも、価値保存の価値の方がさらに高いのです。

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