金の先物取引とはどのようなもの?
金の直物取引(スポット)は、取引をした2日後に決済(T+2と呼ばれます)されます。それの対極にあるのが先物取引(フューチャー)で、取引してから1カ月、半年、1年後といった期日が決済日になる取引。早い話が、未来の価格で取引しているのです。もちろんその期日に金の価格がどうなるか事前にわかる訳ありません。ですが先物価格はスポット価格からおおよその価格が理論的に計算できるのです。
簡単に説明するとスポット価格で金を購入し、それを仮に1年間保有するのにかかるコスト、一般に購入するために借りた資金の金利を指しますが、これを上乗せし、それからスポットで購入した金を1年間運用して得られる金利(リースレート)を引くと、1年の先物を購入するための純粋なコストが割り出されます。
例えば、金の金利が資金の金利より高ければ、資金調達に要したコストより購入した金の運用益が高くなるため、その分、先物価格がスポット価格より安くなります。しかし通常、資金の金利の方が高いので金は現物よりも先物の方が高くなります。このような状態のことを一般にコンタンゴと呼びます。反対に金の金利の方が高くなり、現物が先物よりも高くなる状態をディスカウントと呼びます。
もう少し噛み砕いて説明すると現物の需要が高い状態で、ともかく「モノ」が欲しいという状態にある時は、現物が先物より高くなる傾向にあります。貴金属の中でも、市場規模が小さく産業需要が高いプラチナやパラジウムが、よくディスカウントに陥ります。
コンタンゴには限界がありますが、ディスカウントには限界がありません。何故かというとコンタンゴは「資金の金利-金の金利」以上の先高の状態、いわゆるフルコンタンゴの状態になると、現物を買い、先物を売り、そのままにしておいて決済すればリスクを負うことなく儲かる状態が続きます。
しかしリスクなしで儲かる状態が続くことは普通ありません。一方、ディスカウントの場合は現物が足りない状態で、現物を必要としている度合いが強ければ強いほど、先物との値差は大きくなります。理論的にこれに歯止めはありません。普通このような状態をスクィーズと呼びます。
世の中ではリスクを負うことなく利益を得ることはできません。仮にそうなれば裁定が働き、ほぼ理論値に値段が戻るはずだからです。現物と先物の価格はそうやって一定の関係を維持します。ただし小さなズレは絶えず生じており、そのズレを取り除く役割を演じるのが裁定取引を行う商社や金融機関、いわゆる金融業者になります。
先物市場の存在意義は何なのでしょうか?それはまずリスクヘッジ機能を挙げることができるでしょう。金製品加工業者が金の現物を購入し、同量の金を先物売りしたとします。その後、金製品が完成し、それが材料代(金の購入額)と加工賃(会社の利益)の合算で売れたら先物を買い戻す。こうすれば金価格の変動による損をヘッジすることができます。先物取引は、原材料の価格ヘッジ機能を利用者に提供するのです。
その一方、リスクを負うことで儲けを得ようとする投資家も先物市場を利用します。本体価格の10分の1あまりの証拠金で、先物市場では効率の良い投資ができます。ヘッジファンドは先物市場やCOMEXでレバレッジを効かせて、大きなポジションを取りに来ます。その結果、金の市場に大きな影響を与えています。