2000年代に金の価格が上昇した理由とは
2000年代に入ると金の価格は上昇に転じました。その上昇の理由のひとつは、1999年9月に公表された「金に関するワシントン協定」だと言われています。
欧州中央銀行とユーロ導入国14カ国の中央銀行がワシントンに集まり、「金は重要な準備資産であり、中央銀行は今後合計2,000トンを超えて売却しないこと、さらに金の貸与やデリバティブ取引を制限すること」などについて合意しました。
この協定は2005年に更新され、また2009年には年間の売却量の縮小や、協定参加国を増やしてさらに更新されました。この協定は後に金売却枠「CBGA」と呼称されるようになります。
前述した「金に関するワシントン協定」は金の貸与も制限しました。金の鉱山会社は先物売りのために金の貸与を使用していましたが、その金を鉱山会社に貸与していたのは銀行で、さらにその銀行に金を貸与していたのは中央銀行だったのです。先の協定で金の貸与が制限された結果、鉱山会社の先物売りも目に見えて減少しました。
2001年9月11日、アメリカで同時多発テロが発生。テロリズムが世界の新たな脅威となりました。このテロ事件で世界は安全ではないという認識が広がり、金の価格が上昇を始めました。これに慌てたのが金の鉱山会社です。鉱山会社は数年先まで安価で金を先売りしており、金価格が上昇したら利益が無くなってしまいます。鉱山会社は金の価格高騰の恩恵を得ることができず、株価は上がりませんでした。株価が上がると思っていた鉱山会社の株主たちはこの事態に激怒し、その意向により鉱山会社は先売りしていた金を買い戻し始めたのです。
こうして有力な売り手だった中央銀行と金の鉱山会社が金の売却を転換したため、金の価格高騰に拍車がかかったのです。
丁度このタイミングで登場したのが金ETFでした。これは金の価格と連動するという金融商品で、これと同量の金の延べ棒が買い付けられ、倉庫に保管されるという仕組みです。
最初オーストラリアで2003年に上場され、瞬く間にロンドン、ニューヨーク、パリにも上場、特にニューヨークに上場後は急激な残高増を記録しました。これと同量の金が買い付けられ保管されるのですから、金価格への影響もすごいものでした。2003年時点で1トロイオンス400ドル近辺だった金価格は、わずか数年で1,000ドルを超えたのです。
金ETF自体は10年間で一時26,000トンを超える金を買い付け保管しました。各国の中央銀行の保有量と比べても莫大な量と言えます。この保管量は1年間の世界で生産される金の総量とほぼ同量です。
それだけの量の金が買われたのですから、相場に与えた影響はとんでもないモノになっています。400ドルから1,900ドルまで上昇した金価格のうち、500ドル分くらいは金ETFの影響ではないでしょうか。
また2010年以降、中央銀行が売り手から買い手にチェンジしたことも影響を与えています。年間に500トンを売っていた中央銀行が同量の買い手になったのですから、市場では1,000トンの買い手が出現したのと同様の衝撃があったと考えられます。