世界が金本位制に戻る可能性はありますか?
18世紀まで、金と銀は共に通貨の役割を演じていました。日本においては、関東は金本位制、関西が銀本位制で経済が動いていました。金と銀が、同価値としてその存在を認められていたのです。しかし中南米で銀鉱山の開発が進み、その結果、銀の流通量が激増、銀の価値が暴落し、金のみが通貨の価値基準になったのです。もしその時、金の流通量が激増していれば銀本位制になっていたのかもしれません。
1816年、イギリスで制定された貨幣法が金本位制の始まりだと言われています。産業革命を起こし、世界経済に圧倒的な影響力を持っていたイギリスは、金を裏付けとして通貨の発行を行いました。1884年、イングランド銀行は金と交換できる紙幣を発行しました。このように、国が自ら発行した紙幣と同価値の金を保管し、紙幣と金の交換を保証するのが金本位制の根幹です。
イギリスに続くように世界各国が金本位制を導入したので、国際的な金本位制が確立しました。このイギリスのポンドを中心とした金本位制は約100年、1914年まで続きましたが、大戦勃発で継続が困難になりました。2度目の大戦後は経済の主導権が完全にアメリカに移り、金ドル本位制と呼ばれるドルと金の交換を保証する制度に移行しました。ただ、この金ドル本位制はいわゆるニクソン・ショックでご破算となり、金本位制は完全に終了しました。
現在でも金本位制復活を望む人たちがいます。その人たちの言い分の根拠は、ドルの価値が下落しているということ。金の裏付けなく発行できるようになったドルは最近の金融緩和政策により大量に刷られ、世界中を流通しています。ドルが増え過ぎて弱体化したのが気に障っているのでしょうか。
金本位制は金と紙幣の交換を保証しているため、無尽蔵に紙幣を発行することはできなくなります。そのため金本位制の復活を求める人たちの希望はひとつの考え方ですが、実際、復活するのは無理だと思います。なぜなら、世界の金の総量には限りがあり、現在の経済を支える紙幣と同程度の金は、この世に存在しないからです。
また各国の中央銀行は紙幣の量で経済をコントロールしていますので、おいそれと紙幣と金をリンクさせる訳にはいかないのです。
むかしから金に纏わる陰謀論が語られています。フィクションとしては面白いのですが、現実では絶対に起こりません。金に注目が集まっても、金融の世界では驚くほど市場規模が小さいのです。
金には、株式や債券と同じように専門の取引市場があり、様々な情報で価格が変動します。また金には独自の魅力があり、小さくても価値が高いので陰謀論や、投資家をその気にさせる誇張された勧誘が引き起こされるのです。しかし金は金でしかなく、それ以上でもそれ以下でもありません。
ニクソン・ショックがあってからアメリカの金の量は変化していません。金の力を使ってアメリカが世界経済を牛耳るというのはありえない話です。金を過大評価しているのが、むかしからある陰謀論の共通点です。
もちろんFRBのバーナンキ議長の金融緩和政策に対し、共和党内に金本位制復活論者の議員がいるのも確かです。共和党は1980年代前半のレーガン政権当時、ゴールドコミッションを作り、金本位制についての議論の場を作ったという前例があります。しかし実現可能性について考えると、懐疑的にならざるを得ません。
金価格が高騰し、金に注目が集まっている今、市場や取引に関して正しい知識を身につける必要があります。