メルティングポイントとはどういうもの?

通貨に使われている金属の価値が通貨の額面を超えてしまう、それをメルティングポイントと呼びます。

貴金属が通貨の材料に使用されていた時代、こんなことが起こりました。1951年に発行された100円鳳凰銀貨と、1961年に発行された100円稲穂銀貨が、法定通貨としては最後の貴金属を使用したものでした。

重さ4.8グラムのうち、銀は2.88グラムと全体の6割を占めていました。2013年3月時点の銀の価格はグラム88円ですから、前述した銀貨に含まれる銀の価格は253円となり、100円の額面価格を超えてしまうのです。

さてこの100円銀貨なのですが、市場から消えてしまったことがあります。それは1980年のハント事件の時です。ハント事件とは、テキサスの石油王だったハント兄弟が銀の買い占めを行い、銀価格が5ドルから55ドルまで急騰してしまった事件です。

この時、日本の100円銀貨が買い集められ、輸出されて、溶かされて銀に再生されて売られたのです。これがメルティングポイントを超えたことを利用した裁定取引の具体的な例。国内で銀貨を溶かすのは違法行為となりますが、海外で行われた場合は処罰する規定がありません。そのため、輸出されてから溶かされたようです。

このようなことが起きたので、日本で貴金属が流通通貨に使用されることは無くなりました。また世界的に見ても、流通を前提にした金貨や銀貨は現在では存在しません。

また通貨と金の価格の関係を考える場合、天皇在位60周年硬貨も忘れてはなりません。天皇陛下在位60周年を記念して額面10万円の金貨、1万円の銀貨、500円の白銅貨が製造されたのですが、これは臨時補助通貨扱いされ、額面価格での使用が可能でした。

このうち、10万円金貨には純度99.99%の純金が使われ、重さは20グラム。当時の金価格に換算すると、金の価値は4万円程度でした。それを額面10万円で売るのですから、国は1枚につき6万円を得ることになりました。

記念金貨の額面価格を金の価値よりも高くするのは通常考えられないことです。なぜなら純金だとその加工のしやすさから、簡単に偽造されていしまうからです。

そして案の定、偽造が横行しました。4万円の価値の金が、10万円で使えるのです。本物から型を取れば偽造金貨を造るのは容易で、最終的に偽造された金貨は10万枚を超え、日本は60億円に及ぶ損失を出したのです。儲けるつもりが大損害という結果になりました。

ちなみにこの10万円金貨。含まれる金の価値は現在10万円になっており、ようやく額面と中の金の価値が一緒になりました。仮に10万円で今買った場合、金の価格が上昇していけば額面以上の価値になりますし、金の価格が下落したとしても額面の10万円で使えば良いので、損にはなりません。これはプットオプションを買ったのと同様になるのです。

メルティングポイントは通貨以外でも起こります。銀食器は欧米では昔から愛用されており、「銀の匙をくわえて生まれる」という言葉があるように、上流階級のシンボルでもありました。そんな銀食器なのですが、2011年あまりに急激に銀の価格が上昇したため、銀食器に含まれる銀純分の価値が銀食器の価値を上回ってしまったのです。その結果、儲け話に聡い投資家達がネットオークションを通じ、割安な銀食器を買い占めるような事も起きています。

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